エンドポイント
/えんどぽいんと
毒性試験において、毒性評価の基準とする影響(症状)のこと。具体的には、毒性影響による死亡、挙動の変化、がんの発生や生殖障害といった生理学的又は生化学的な症状の発生などが該当する。一般に化学物質の毒性の評価は、各エンドポイントの影響が生じる(又は生じない)濃度又は用量を表す指標であるNOAEL(無毒性量)、 NOEC(無影響濃度)、LC50(半数致死濃度)等に基づいて行われている。
環境リスク評価
/かんきょうりすくひょうか
化学物質などが環境媒体(大気や水など)を経由して人の健康や生態系に悪影響を及ぼす可能性があることを「環境リスク」と呼び、その環境リスクの程度を定量的に評価することを環境リスク評価と呼ぶ。化学物質などの有害性(ハザード)の程度と曝露性の程度をそれぞれ評価して、両者の関係から環境リスク評価が行われる。
間接曝露
/かんせつばくろ
ヒトや生物への化学物質等の曝露は、その曝露経路により「直接曝露」と「間接曝露」に分けられる。直接曝露は、対象とする化学物質を扱う工場内などの現場において吸引や接触等により直接的に摂取する曝露であるのに対し、間接曝露は、大気や水域、土壌など環境中へ拡散した化学物質が空気の吸入や飲水、食品の摂食等を通じて間接的に摂取される曝露を指す。
揮発性や生物蓄積性など、個々の化学物質の特性等に応じて曝露されやすい経路は異なる。
急性水生生物毒性
/きゅうせいすいせいせいぶつどくせい
化学物質等が水生生物に及ぼす有害性のことであり、短期間の曝露を想定したもの。有害性の程度は、一般には魚類、甲殻類、藻類の3種類の試験によって評価が行われ、LC50(半数致死濃度)、EC50(半数影響濃度)等の指標の値として示される。
急性毒性
/きゅうせいどくせい
化学物質の毒性の種類の一つで、化学物質を投与した直後、又は数日以内に悪影響が現れる毒性のこと。この急性毒性の程度を示す指標としては、半数致死量 (LD50) などが使われ、例えば体重1kg当たりの投与量として"mg/kg-体重"といった単位で表される。
寄与率
/きよりつ
日本語の「寄与」とは本来は「何かの役に立つこと」という意味であり、その目的に対する寄与の割合を定量的に表すのが「寄与率」の本来の意味である。例えば「A県のVOC排出量の削減に対する当社の寄与率」などと表現される。
このように、本来は良い意味で「貢献する」場合に使われる表現であるが、曝露評価においては、曝露経路ごとの摂取割合という意味で「寄与率」という表現が使われることがある。この「寄与率」という表現は、水質環境基準(健康項目)に関連した中央環境審議会の答申などでも使われているが、「寄与」の本来の意味を考えると、紛らわしい表現である。「アロケーション」や「曝露割合」と表現される場合と同義である。
GESAMP-EHSグループ
/げさんぷいーえいちえすぐるーぷ
GESAMP Working Group on Evaluation of the Hazards of Harmful Substances Carried by Ships (WG1)のこと。GESAMPの作業部会のうち、船舶によって輸送される化学物質の有害性評価等を行っている。
GESAMPハザードプロファイル
/げさんぷはざーどぷろふぁいる
マルポール条約附属書Ⅱに基づく化学物質の汚染分類の評価を主な目的として、化学物質の有害性に関する 13 項目について、有害性の高さや性質に応じた数値又は記号(レーティング)を付すことにより、物質の性質を表すもの。GESAMP-EHSグループが策定したものであり、レーティングの基準は GHS に準じている(ただし、ハザードプロファイルではレーティングの数値が大きい方がより有害性が高いことを意味する)。GESAMPハザードプロファイルの一覧(GESAMP Composite List)は、PPR.1/Circular 等によって公表されている。
国際がん研究機関(IARC)
/こくさいがんけんきゅうきかん(あいえーあーるしー)
発がん原因の特定、発がん性物質のメカニズムの解明、発がん制御の科学的戦略の確立を目的とする世界保健機関(WHO)の専門機関のこと。IARCは、International Agency for Research on Cancer の略。様々な物質や要因(化学物質や混合物、環境等)のヒトに対する発がん性を評価し、評価結果をグループ1(ヒトに対する発がん性がある。)、グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある。)、グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある。)、グループ3(ヒトに対する発がん性について分類できない。)、グループ4(ヒトに対する発がん性がない)の5段階に分類している(5段階の分類は、評価された物質などの発がん性に関する科学的な根拠の確からしさを示すものであり、発がん性の強さやリスクの大きさを示すものではない。)。例えば、「ポリ塩化ビフェニル(PCB)」や「タバコの喫煙」はグループ1(ヒトに対する発がん性がある。)に分類されている。
>>> IARCによる発がん性の分類結果
水生環境有害性
/すいせいかんきょうゆうがいせい
化学物質等に水生生物が曝露した場合に発現する毒性のこと。短期間の曝露を想定した急性水生生物毒性と、長期間の曝露を想定した慢性水生生物毒性に分けて評価される。魚類(メダカ等)、甲殻類(ミジンコやアミ類等)、藻類等を用い、OECD(経済協力開発機構)が定めるテストガイドライン等に基づき試験を行う場合が多い。
水生生物
/すいせいせいぶつ
水中や水辺に生息する生物のこと。公共用水域では、人への健康影響と水生生物への影響のそれぞれの観点から管理体系が構築されている。環境リスク評価の際には、魚、ミジンコ等の無脊椎動物、藻類が代表的な種として評価対象とされることが一般的である。
スクリーニング
/すくりーにんぐ
条件に合致するものを最終的に選ぶ前の段階で、簡単な条件設定によって候補の適否を判定して振り分けること。厳密な判定に多大な時間を要するとき、明らかに合致しないものだけを効率的に除外することを目的として行われるのが一般的である。
生殖細胞変異原性
/せいしょくさいぼうへんいげんせい
変異原性の中でも、特に生殖細胞に関するものであり、次世代に受け継がれる可能性のある突然変異(細胞内の遺伝物質の量または構造の恒久的変化)をもたらす性質のこと。
生殖毒性
/せいしょくどくせい
生殖機能や受精能力、または子どもの正常な発生に対して有害な影響を及ぼす性質のこと。化学物質に曝露したマウスやラットによる繁殖試験等を行い、親の体重変化や交尾能、生存胎児の数や発育等への影響を評価する。例えば、カドミウム及びその化合物はラット・マウスを用いた試験により胎児の死亡や成長阻害等が観察され、LOAEL 6.9μg/kg/day と評価されている(IARC 1993)。
生物蓄積性(蓄積性)
/せいぶつちくせきせい(ちくせきせい)
化学物質が生物の体内に取り込まれ、そこに蓄積する程度のこと。単に蓄積性ともいう。生物濃縮が「水との接触によって水中の化学物質が生体内に取り込まれて蓄積すること」であるのに対し、生物蓄積は「経路によらず(食物の摂取による取り込みを含め)生体内に化学物質が取り込まれて蓄積すること」であり、両者は区別されている。例えばPOPs条約の規制対象となる物質は難分解性や高蓄積性等の特徴を有する物質とされている。
複数の曝露経路からの摂取が想定される条件下で、生物の体内に蓄積する程度を表す指標として、生物蓄積係数(BAF;Bioaccumulation Factor)が使われるが、この生物蓄積性を判定するための試験は一般に濃縮度試験が使われており、例えば生物濃縮係数(BCF;Bioconcentration Factor)の値によって判定される。
生物濃縮性
/せいぶつのうしゅくせい
水中で化学物質に接触し、 生物の体内に取り込まれたり、 生物に吸着したりする程度のこと。「生物蓄積性」と同じ意味で使われることもあるが、「生物濃縮性」は通常は水中での室内実験や定常状態で取り込まれ、体内での変換や排せつを経た最終結果を意味するのに対し、「生物蓄積性」は考えられる全ての曝露経路(空気、水、堆積物/土壌、および食物)を含めた概念であり、「生物濃縮性」より広い意味を持っている。さらに、「生物拡大」は食物連鎖による化学物質の蓄積および移動と定義されている。
指標となる生物濃縮係数(BCF)は、生物体内と、定常状態における周囲の媒体(水中等)における化学物質の濃度比(重量ベース)で定義される。
生物濃縮係数(BCF)
=生物体内における化学物質濃度(mg/kg)
/定常状態における周囲の媒体(水中等)における化学物質の濃度(mg/kg)
生分解
/せいぶんかい
化学反応によって複数の分子量の小さな化学物質に分かれることを分解と呼ぶが、そのうち、微生物の働きによって水や二酸化炭素などの比較的分子量の小さな物質に変換されること。
有害な化学物質の場合、一般に生分解が遅いほど環境中に残留して悪影響が生じやすい。例えば、合成洗剤に含まれる界面活性剤として使われていたABS(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)は生分解が極めて遅いため、より速く生分解が進むLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)に代替された。
下水処理施設における主要な下水処理工程は、活性汚泥による生分解を促進し、数時間程度の水処理で浄化させるのが一般的である。
専門家判断
/せんもんかはんだん
客観的な判断基準ではなく、専門家の経験などによる主観的な判断のこと。エキスパートジャッジメントと呼ばれることもある。客観的な判断基準に基づく機械的な判断では重要なポイントが見落とされてしまうことも考えられ、また、単純化した判定フローに適さない総合的な評価が必要と考えられる場合もあるため、このような専門家の経験や知見に基づく判断が有効なことがある。
蓄積性
/ちくせきせい
⇒「生物蓄積性(蓄積性)」を参照
動態
/どうたい
化学物質などが環境中に排出されたあと、時間の経過と共に化学物質の状態が変化する程度やその変化する方法のこと。例えば水環境中に排出された化学物質の場合、その後の動態としては「大気への蒸散」や「加水分解」、「魚類への蓄積」などが考えられる。
特定標的臓器毒性
/とくていひょうてきぞうきどくせい
肝臓や肺、眼等の臓器や血液や神経等の機能・形態に有意な変化や機能障害をもたらす性質のこと。
曝露
/ばくろ
ヒトや生物が有害な化学物質を体内に取り込むこと。化学物質による環境リスクの評価は、化学物質の有害性の程度と曝露の程度を両面から評価することによって行われる。
同じ意味で「暴露(ばくろ)」と呼ばれることもあるが、この用語の意味は「暴く(あばく)」ではなく「曝す(さらす)」ということであるため、漢字本来の意味を優先して、ここでは「曝露」と表記した。
曝露経路
/ばくろけいろ
人が化学物質を摂取する場合、食物や飲料水を経由したり、呼吸によって取り込んだり、複数のルートが考えられるが、その曝露に至る経路として想定されるものを「曝露経路」と呼ぶ。曝露経路は、対象とする化学物質の使われ方や物性値(例:沸点、水溶解度)等によって異なる。
曝露シナリオ
/ばくろしなりお
化学物質の曝露評価を行うため、想定される曝露経路やその方法、状況などを具体的に記述したもの。
化学物質が人や生態系へ及ぼす影響を評価する際には、人や生物がその化学物質に曝露される量を定量的に表す必要があり、人が作業環境中で直接曝露される場合や環境を経由して間接的に曝露される場合など、想定されるさまざまな曝露経路が示されるのが一般的である。化学物質の曝露シナリオは、化学物質の用途や性質などを考慮して設定されることが多い。
曝露性
/ばくろせい
人の健康や生態系に対して化学物質などの悪影響が及ぶ可能性や曝露される程度のこと。化学物質による悪影響を考える場合、人や生態系がその化学物質に曝露された場合に発現すると見込まれる悪影響の程度を有害性と呼び、その有害性と曝露性の両者を併せて環境リスクが評価される。
ハザード比
/はざーどひ
化学物質のリスクの程度を表す指標の一つ。曝露量÷耐容摂取量で求められ、その値が"1"より小さければ化学物質によるリスクはないとされる。
発がん性
/はつがんせい
正常な細胞に対してがん(悪性腫瘍)を誘発する又は発生率を増加させる性質のこと。通常、発がん性の評価はマウスやラットを用いた動物試験により行われるが、膨大な期間と費用を要することや、評価を必要とする化学物質等が増加していることなどから、細菌や哺乳類の培養細胞を用いたスクリーニング試験も広く用いられている。国際がん研究機関(IARC)では、様々な物質や要因などのヒトに対する発がん性を評価し、分類結果を公表している。
>>> IARCによる発がん性の分類結果
バラスト水交換
/ばらすとすいこうかん
船舶のバラスト水を介した生物移入を防止するための手法の一つであり、船舶バラスト水規制管理条約附属書B-4規則に規定されている。外洋においてバラスト水を交換することによって、侵略性の生物種が他国の沿岸域に排出される可能性を低減させる。バラスト水交換は、BWMSを用いるバラスト水管理を補完する手法として位置づけられており、BWMSを搭載するまでの経過措置等として用いられている。バラスト水交換の基準は、同附属書D-1規則において、バラスト水量の95%以上を交換するなど定められている。
人健康
/ひとけんこう
化学物質が影響を与える対象としての「人の健康」のこと。「ヒト健康」と表記される場合もある。人健康への影響の具体的な項目には、発がん性、変異原性、生殖毒性等がある。化学物質のリスク評価において、水生生物とともに影響を評価されることが多い。
分解性
/ぶんかいせい
化学物質等の大気、水中、土壌等における分解のされやすさのこと。環境中に排出された化学物質は、光分解、加水分解、生分解等の過程を経て分解され、より小さな構造の物質に分解されることが多い。そのような分解が起こると、元の化学物質の有害性による悪影響が一般に解消されるが、分解されないまま環境中に存在する化学物質は長期間にわたってその影響が残るため、「難分解性」の化学物質として扱われ、化審法等の規制対象になることが多い。
変異原性
/へんいげんせい
細胞または生物の集団における突然変異(細胞内の遺伝物質の量又は構造の恒久的変化)の発生をもたらす性質のこと。サルモネラ菌を用いるエームス(Ames)試験や、哺乳類の培養細胞を用いる染色体異常試験、げっ歯類を用いた小核試験などの評価方法があり、通常は数種類の試験を組み合わせて総合的に評価する。これらの変異原性試験は、発がん性を評価するためのスクリーニングとしても有効である。
偏在性
/へんざいせい
化学物質等の使用や排出が特定の場所に集中している程度のこと。ごく一部の事業者だけが取り扱う特殊な物質は、環境中への排出ポイントも限られた地点しか存在しないと考えられるため、そのような物質については「偏在性が高い」と表現する。
全国合計の排出量が同程度の物質が複数あったとき、偏在性が高い物質と偏在性が低い(=排出ポイントが分散している)物質のどちらを優先的に取り扱うかは、その対策等の目的に応じて判断が分かれる。
マルポール条約附属書Ⅰ
/まるぽーるじょうやくふぞくしょいち
マルポール条約の附属書のうち、油による海洋環境汚染を規制するためのものであり、「油による汚染の規制のための規則」のこと。附属書Ⅰにおいて「油」は、「原油、重油、スラッジ、廃油、精製油その他のあらゆる形態の石油(附属書Ⅱの適用を受ける石油化学物質を除く。)をいい、付録Ⅰに掲げる物質を含むが、これらに限られない。」と定められており、附属書Ⅱの対象(有害液体物質)が附属書Ⅰの対象から除外されているところであるが、近年、IMOにおいて、附属書ⅠとⅡの対象物質の区別が明確でないことが指摘されており、その区別を明確にするための指針作成等の議論が行われている。
慢性水生生物毒性
/まんせいすいせいせいぶつどくせい
化学物質等が水生生物に及ぼす有害性のうち、長期間の曝露を想定したもののこと。有害性の程度は、一般には魚類、甲殻類、藻類等の試験によって評価され、NOEC(最大無影響濃度)等の指標の値として示される。
無影響濃度
/むえいきょうのうど
化学物質の毒性を表す指標の一つであり、水域へ排出されても水生生物等に影響が出ないと考えられる最大の濃度。NOEC(No-Observed-Effect Concentration)とも表記される。
無毒性量
/むどくせいりょう
化学物質の毒性を表す指標の一つであり、人や動物が曝露されても悪影響を受けないと考えられる最大の量のこと。通常は、人などが摂取する化学物質の量を体重1kg当たりかつ1日当たりに換算して"mg/kg-体重/日"といった単位で表す。NOAEL(No-Observed-Adverse-Effect Level)とも表記される。人への無毒性量は動物試験で得られた結果を基に設定されることが多い。
有害性
/ゆうがいせい
人や生態系がその化学物質に曝露された場合に発現すると見込まれる悪影響の程度のことであり、ハザードと呼ばれることもある。有害性には「急性毒性」や「発がん性」など多くの種類があり、それらの試験結果などのデータも数多く存在しているが、信頼性に欠けるデータも存在しているとの指摘もある。
LOAEL
/ろあえる
化学物質の有害性評価に係る指標のひとつであり、特定の化学物質を反復的に試験対象(動物)へ投与した場合等において、試験対象に毒性学的影響が認めれる最小の用量をいう。最小毒性量(Lowest Observed Adverse Effect Level)ともいう。似たような指標として無毒性量(NOAEL;No Observed Adverse Effect Level)があるが、こちらは「毒性学的影響が認められない最大の用量」 である。 環境リスク評価の観点から信頼性がLOAELよりも高いとされているが、試験によってはNOAELを求めることができない場合(※)があり、NOAELをLOAELで代替することがある。
一般に、NOAEL≦LOAELであり、LOAELでNOAELを代替する場合は、LOAELを10で除すなどの外挿を行う。
※例えば、10μg、20μg、・・・と化学物質を投与した場合に、最小の10μgで影響が出てしまうと自信を持ってNOAELを設定することができないため、LOAELによる代替が検討されることがある。
参考 : 化学物質のリスク評価がわかる本 (NITE)