移動体
/いどうたい
化学物質などの発生源のうちの一つとして、自動車や船舶、航空機など、自ら移動することが可能な機器で、排出する場所が連続的に移動する形態のもの。「移動発生源」と呼ぶ場合も同義である。
固定発生源やその他の非点源発生源は、排出する主体を特定して業種別の排出量などが推計されるが、移動体の場合は「運送業」や「建設業」等の業種別に推計されず、移動体として独立した扱いをされるのが一般的である。
移動発生源
/いどうはっせいげん
固定発生源と対比して使われる表現であり、大気汚染物質等の発生源のうち、自動車や船舶など場所が移動してしまうもののこと。個々の発生源(自動車の車両等)の場所を厳密に特定するのは困難なため、道路交通センサス等の統計データに基づいて、場所ごとの存在量を確率分布的に表して排出量を推計するのが一般的である。
インベントリ
/いんべんとり
日本語で「目録」とも呼ばれるが、環境分野でのインベントリ(英語:Inventory)とは、ある期間の排出量などの全体像をその内訳と共に示すような場合に用いられる表現である。一般に「インベントリ」と呼ぶためには、(1)関係する排出量等の全体がほぼ網羅されていること、(2)排出量等の内訳が示されていること、の二つの条件を満たすことが必要である。我が国では、ダイオキシン類や揮発性有機化合物(VOC)、水銀などの排出インベントリが公表されている。PRTRデータは通常はインベントリとは呼ばれていないが、物質によってはPRTRデータが排出インベントリと同等のものになっていると考えられている。
活動量
/かつどうりょう
化学物質等の環境中への排出量を推計するのに使われるパラメータの一つであり、これに排出係数を乗じて排出量が推計される。排出量推計の対象となるものによって、利用可能な統計データ等の種類も異なるため、活動量の設定方法は推計対象によってさまざまなものが使われている。活動量の例としては、例えば以下のようなものが使われている。
例1:ガソリンスタンドの給油に伴う排出→ガソリン等の燃料の給油量(kL)
例2:自動車の排気ガスによる排出→自動車の車種別・旅行速度別の走行量(km)
含有率
/がんゆうりつ
化学製品などに含まれる物質の重量割合のことで、百分率(パーセント)などで表される。「濃度」と表現される場合も、ほぼ同義である。このような製品中の化学物質の含有率(濃度)は、一定の有害性を持つ物質についてはSDSに記載することが義務づけられている。PRTRの届出外排出量の推計では、このような製品中の化学物質の含有率からのアナロジーとして、廃棄物中の化学物質についても含有率という概念を導入し、その平均的な値の推計を試みている。
大気や水質などに含まれる化学物質の重量割合については、通常は「含有率」という表現は使わず「濃度」と表現する。
コールドスタート
/こーるどすたーと
排出ガス除去触媒が冷えた(活性化していない)状態で自動車等のエンジンが始動され走行すること。触媒が暖まった状態(暖機後、ホットスタート)で同距離を走行する場合に比べて、触媒の効果が十分に発揮されないことや、ガソリン車においては燃料の噴射量を増加させていることなどから、ホットスタートに比べてより多くの化学物質が排出されることが知られている。
我が国では、PRTRの届出外排出量の一部として、自動車と二輪車のコールドスタートによる化学物質排出量の増分を「コールドスタート時の増分」として、対象化学物質の排出量を推計している。
固定発生源
/こていはっせいげん
発生源のうち、自動車や船舶等の移動発生源を除く発生源のことであり、火力発電所や工場などの燃焼発生源が代表的なものである。移動発生源(mobile source)に対比して使われる表現であり、その発生源の場所が不変である(=固定されている)ことから固定発生源(stationary source)と呼ばれる。
個別物質
/こべつぶっしつ
揮発性有機化合物(VOC)の排出インベントリなど、推計された化学物質の排出量において、「パラフィン系炭化水素類」や「芳香族」といった物質群に対し、その物質群に含まれる個々の成分(例:n-ヘキサン)のこと。個別物質はトルエンのような純物質とは限らず、ミネラルスピリットのような混合物の場合もある。
在庫量
/ざいこりょう
ある事業者が外部から調達し、未使用のまま保管されている(又は製造機器等の中に残っている)数量のこと。国レベルでは、製造・輸入業者から国内に出荷され、消費されないまま市場に残っている数量のこと。出荷量や使用量、排出量などは「1年間あたりの数量」として表されるが、この在庫量は棚卸しを行った時点や「平成○年度末」といった特定の時点における数量である。
蛍光灯等に使用されている水銀や冷凍庫の冷媒等として使用されるオゾン層破壊物質などは、新たな出荷が停止した後も長い間市中に存在し、その長期間の使用や廃棄に伴って環境中に排出する可能性があるため、在庫量の把握が重要となっている。
需要割合
/じゅようわりあい
ある物質や製品の国内出荷量を合計だけで示すのではなく、その使われる分野ごとの出荷量の割合を併せて示すとき、その出荷量の割合のこと。
化学物質の環境中への排出量を推計するとき、その需要割合を使って分野別の排出量として推計することができれば、その排出に関係する主体(業種等)が特定され、環境改善を促すべき対象が明らかになるといったメリットが考えられる。
総排出量
/そうはいしゅつりょう
PRTRの「すそ切り以下排出量」の推計で定義したもので、排出源ごとの全国における対象業種全体の排出量のこと。すそ切り以下排出量は総排出量を基に、従業員規模や年間取扱量に基づく「すそ切り以下の割合」を考慮して推計される。
低含有率物質
/ていがんゆうりつぶっしつ
製品中の含有率が低い(概ね1%未満の)成分は、いわゆる「製品の要件」に該当しないため、化学物質排出把握管理促進法に基づくSDSが不要で、PRTRの届出においても把握義務がない。このように、含有率が低いため届出対象とならない第一種指定化学物質を低含有率物質と呼び、そのうち、当該製品自体の取扱量が大きく排出量が無視できないものは届出外排出量として推計することとしている。これまで、石炭火力発電所で使用される石炭について、その燃焼に伴って生じる排ガス及び排水に含まれる対象化学物質の排出量が「低含有率物質」として推計されている。
農薬の有効成分など、他にも届出外排出量が推計されている低含有率物質があるが、それらは「農薬」など独立した排出源の一部として別途推計されている。
定量化
/ていりょうか
「多い」や「少ない」といった定性的な情報だけでは排出量推計などを行うことが困難であるため、何らかのデータに基づいて(又は何らかの仮定を置いて)定量的な値として設定することを「定量化」と呼ぶ。
適用対象 (※農薬に関して)
/てきようたいしょう
農薬における適用対象とは、農薬が使用される作物等の種類(又はその分類)のこと。農薬取締法に基づいて登録された農薬は、その使用が可能な作物等の種類が登録農薬ごとにあらかじめ指定されており、それ以外の作物等に農薬を使用することはできない。このような適用対象には「水稲」や「キャベツ」、「柑橘類」、「松」などが含まれる。PRTRの届出外排出量の推計では、「農薬適用一覧表」(一般社団法人日本植物防疫協会)に基づいて農薬種類ごとの適用対象を把握している。
トップダウン式
/とっぷだうんしき
トップダウンとは「上から下に」という意味で、意思決定の手順などを表す場合に使われる用語であるが、その手順へのアナロジーとして、PRTRでは排出量推計の手順を表すときに「トップダウン式」という表現を使っている。具体的には、化学物質の環境中への排出量などを推計するとき、製品ごとの全国出荷量など、推計対象の全体の数量を表すパラメータを使った推計方法のことを表す。別の推計方法を表す「ボトムアップ式」と対比して使われる。
全国出荷量などのパラメータは、一般に不確実性の小さなパラメータであるため、トップダウン式の推計方法が採用可能であるときは、ボトムアップ式の推計方法に比べて信頼性が高いことが多いと考えられている。
届出外排出量
/とどけでがいはいしゅつりょう
化学物質排出把握管理促進法に基づく我が国のPRTR制度において、届出排出量以外の排出量として、同法の第9条に基づいて国が推計した排出量のこと。省令に基づき「対象業種」、「非対象業種」、「家庭」、「移動体」の4区分で排出量が推計・公表されるとともに、「農薬」や「塗料」、「自動車」といった排出源ごとの排出量も推計・公表されている。
この届出外排出量は、農薬や塗料といった排出源ごとに製品の全国出荷量や含有率、排出率等の調査を行い、さまざまな仮定を置いて推計するのが一般的であり、これまで21種類の排出源を対象として排出量の推計結果が公表されてきた。このように数多くの排出源を対象として届出外排出量を推計・公表しているのが、我が国のPRTR制度の大きな特徴の一つとなっている。
排出インベントリ
/はいしゅついんべんとり
化学物質などの排出量を発生源ごとに把握(推計)し、それを発生源毎の数量として整理したもの。排出量の総量と内訳を把握するために作成するものであり、環境政策においては、発生源毎の対策の必要性や取組の進捗状況の把握などを目的として作成されることが多い。
例として、二酸化炭素などの温室効果ガス、ダイオキシン類、揮発性有機化合物(VOC)、水銀(大気への)の排出インベントリなどが挙げられる。
排出係数
/はいしゅつけいすう
化学物質などの環境中への排出量を推計するときのパラメータの一つ。排出の原因となっている事業活動などの規模を「活動量」として表し、その活動量当たりの排出量を「排出係数」として表し、過去の実測データなどに基づいて経験的な値として表されることが多い。例えば、自動車に給油したガソリンの容量(kL)あたりのベンゼンの排出量(mg)の割合を、給油時の排出係数(mg/kL)として表すことができる。
化学物質の使用量(kg)に対する排出量(kg)の割合など、両者の次元(単位)が同じ場合は「平均排出率(%)」として表されるのが一般的であるが、平均排出率を含む広い意味で排出係数と呼ばれることもある。
排出源
/はいしゅつげん
化学物質などが排出される場所や製品等の区分のこと。「塗料」や「農薬」といった製品種類や「自動車」といった移動体種類などが該当する。
排出率
/はいしゅつりつ
事業所単位の場合、化学物質等の取扱量に対する排出量の割合のこと。施設や工程を単位とする場合は、ある施設や工程に投入される数量に対して環境中に排出される割合のこと。
媒体
/ばいたい
環境の構成要素である「大気」や「公共用水域」、「土壌」などのこと。例えば「媒体別排出量」と表現するときは、化学物質の環境への排出量が「大気への排出量」と「公共用水域への排出量」などに分けられた排出量であることを意味する。
発生源
/はっせいげん
化学物質などが排出される場所や製品等の区分のこと。個々の工場・事業場のように地理的・空間的な場所を意味する場合もあるが、「塗料」や「農薬」といった製品種類などを表す場合もある。環境省が作成しているVOCの排出インベントリでは、後者の意味であることを強調して「発生源品目」と呼んでいる。
非点源排出量
/ひてんげんはいしゅつりょう
工場などの固定発生源以外の小規模で分散した発生源からの排出量のことで、具体的には家庭や移動体、中小零細企業の事業所などが該当する。「非点源」とは英語の"Non-Point Source"を直訳したものである。
非点源排出量は届出外排出量とほぼ同義だが、我が国のPRTR制度では、届出外排出量のうち「すそ切り以下排出量」を除いたものを非点源排出量と呼ぶ決まりとなっている。
標準組成
/ひょうじゅんそせい
塗料や接着剤等の化学品について、製品の分類ごとに設定した代表的な組成(物質ごとの含有率)のこと。 塗料や接着剤などは製品の種類が極めて多いため、個々の製品の含有率を網羅的に把握して国全体の排出量を推計するのは困難なため、 このような標準組成が作られ、 排出量推計に活用されている。 我が国で PRTR の導入が検討されていた初期段階で は、SDS(MSDS)の整備が十分ではなかったため、事業者による排出量の把握を支援するために標準組成が使われたこともある。
ベース物質
/べーすぶっしつ
PRTRの「すそ切り以下排出量」の推計で定義したもので、各排出源に関係する製品の全国出荷量と平均含有率等に基づいて排出量が推計される物質のこと。一方、各排出源で平均含有率等のデータが直接得られない物質は、化学物質を取り扱う事業者へのアンケート調査によって得られる化学物質ごとの排出量の比率を使って追加的に推計しているため、そのような物質を追加物質という。
平均含有率
/へいきんがんゆうりつ
製品などの混合物に含まれる化学物質ごとの含有率の平均値のこと。「標準組成」と表現する場合も基本的に同義である。製品等の種類が同じでも、個々の製品ごとに含有率が異なるのが一般的であるため、それらを何らかの方法で平均し、その製品種類としての代表的な含有率として設定したもの。例えば塗料の場合、「建物用のアクリル樹脂系塗料(常温乾燥型)」といった塗料種類に対応した平均含有率(標準組成)が設定されている。PRTRの届出外排出量の推計においては、廃棄物についても「廃プラスチック類」等の廃棄物種類ごとの平均含有率という概念を導入し、廃棄物処理に伴う排出量を推計することが試みられている。
平均取扱量
/へいきんとりあつかいりょう
複数の取扱量データが得られたとき、それらを何らかの方法で平均した値のこと。サンプリング調査で複数の事業者(事業所)から回答された取扱量データを単純平均し、ある業種や化学物質の「平均的な取扱量」として算出する場合などが該当する。
サンプリング調査に基づく平均取扱量を設定する場合、得られたデータ数が少ないときや、取扱量のばらつきが大きいときには、算出される平均取扱量の信頼性が低くなるため、その平均取扱量を前提として排出量などを推計する場合は、その結果の信頼性も低くなると考えられる。
平均排出率
/へいきんはいしゅつりつ
事業活動などにおいて、化学物質の使用量(kg)や施設への投入量(kg)に対し、環境へ排出される数量(kg)の占める割合のことを排出率と呼び、それを平均した値を平均排出率と呼ぶ。
その使用等の過程で当該物質が新たに生成されることがない限り、平均排出率が100%を超えることは原理的にないため、物質収支の観点からデータの信頼性が検証しやすくなると共に、当該工程の効率性の指標にもなり得る。
捕捉率
/ほそくりつ
実態調査などを行った場合、すべての対象からデータが得られるとは限らないため、「本来の把握対象」に対して、「実際にデータが得られた対象」の割合のことを「捕捉率」という。全数調査ではなく抽出調査とすることでも捕捉率は100%より小さくなるが、調査対象範囲の中でもデータが取得できないこと(例:アンケート調査における無回答)もあるため、その場合は捕捉率がさらに低くなる。
一般に、捕捉率が低いデータを使うと、それに基づく推計結果の不確実性が大きくなる。
ホットスタート
/ほっとすたーと
排出ガス除去触媒が暖まった状態で自動車等のエンジンが始動され走行すること。
国は、化学物質排出把握管理促進法に基づくPRTR制度において、自動車と二輪車の排気ガスによる対象化学物質の排出として、ホットスタートによる化学物質排出量を「コールドスタート時の増分」とは区別して推計し、届出外排出量として公表している。
自動車排出ガス規制値は、これまでホットスタートを前提とした10・15モードなどが使われてきたが、コールドスタートの寄与を考慮に入れたJC08モードなどに切り替わってきた。
ボトムアップ式
/ぼとむあっぷしき
ボトムアップとは「下から上に」という意味で、意思決定の手順などを表す場合に使われる用語であるが、その手順へのアナロジーとして、PRTRでは「人口1人当たりの消費量」や「1事業所当たり取扱量」といった平均値をサンプリング調査に基づいて設定し、拡大推計によって全体の排出量などを推計する手法のことをボトムアップ式と呼ぶ。別の推計方法を表す「トップダウン式」と対比して使われる。
サンプリング調査によるデータを基礎としており、そのデータ数やばらつきによって平均値の信頼性に大きな差が生じるが、トップダウン式の推計方法に比べると推計結果の信頼性が低くなることが多いと考えられている。
摩耗製品
/まもうせいひん
PRTRの届出外排出量の推計対象となる排出源は、溶剤などが大気へ蒸発したり、使用した薬剤が水へ放流されることを想定した排出源が多いが、中には摩耗によって製品の一部が飛散することによって環境中へ排出されるものがある。このような摩耗による飛散を想定した排出源を「摩耗製品」と呼ぶこととしており、既に推計対象となっている摩耗製品には鉄道車両のブレーキパッド等がある。 また、鉄道車両の集電装置(例:パンタグラフ)も摩耗製品に該当するが、排出量推計に必要なデータが現時点までに得られておらず、排出量の推計・公表には至っていない。
用途
/ようと
化学物質などの「使われ方」のこと。用途の表現方法には、化学物質などの機能に基づく表現(例:可塑剤、界面活性剤)と、化学物質(又はそれを含む資材)などの使用目的(例:塗料、工業用洗浄剤)に基づく表現が存在している。化学物質審査規制法による用途情報の届出は、この機能と使用目的を適切に組み合わせることによって行われることになった(優先評価化学物質等については、「詳細用途分類」の届出が必要)。
ライフサイクル
/らいふさいくる
製品は、その原料採取から製造、廃棄に至るまでの全ての段階(原料採取→製造→流通→使用→リサイクル・廃棄)において様々な環境への負荷(資源やエネルギーの消費、環境汚染物質や廃棄物の排出など)を発生させており、これらの各段階(ライフステージ)を一連の流れとして捉えたものをライフサイクルと呼ぶ。
我が国のPRTR制度ではオゾン層破壊物質の排出量を推計しているが、オゾン層破壊物質は、製品中に含まれて出荷された後、使用段階や廃棄段階で排出されるものが多いため、そのライフサイクルに基づく排出量推計が不可欠である。例として、冷凍冷蔵機器やエアコンは、現在オゾン層破壊物質を冷媒として製造されるものは少なくなったものの、以前出荷された機器は現在も市中で稼働しており、オゾン層破壊物質が市中で稼働している間、また使用済みとなって廃棄される際に大気へ放出されている。
ライフステージ
/らいふすてーじ
化学物質の製造から使用を経て廃棄されるまでのライフサイクルの中で、それぞれの「段階」をライフステージと呼ぶ。一般的には「製造」「調合」「工業的な使用」等に区分されることが多い。ライフステージにより化学物質の使われ方が大きく異なることから、化学物質の管理等の場面ではこのような区分を用いて現状把握や対策を検討することが多い。