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「油」とは?             2/2

「油」と「有害液体物質」の扱いの違い

 「油」と「有害液体物質」の定義は前述のとおりであるが、それぞれ従う規則自体が異なっているため、ある液体が「油」に該当するのか「有害液体物質」に該当するのかによって、海上輸送をする際の扱い(遵守すべき事項)も大きく異なってくる。

 例えば、船舶の構造一つとっても、「油」を輸送する場合には、(総トン数などに関する要件を満たす船舶は)船舶から排出される“油を含む液体”(「油性混合物」)について、油の含有率が15ppm(0.0015%)未満であることを保証できる「油除去装置」や、排出される油性混合物の油分濃度や排出速度を記録できる「油排出監視制御装置」を設置しなければならない(他にも多くの要件が課される)。一方、「有害液体物質」は、個別の物質ごとに求められる構造が異なり、物質の性質によって必要となる蒸気検知装置や防火装置のタイプなども異なってくる(「有害液体物質」は、個別の物質ごとに国際海事機関での「査定」を受けなければならない)。その他、排出基準や輸送の際に必要となる記録簿や証書等の書類の様式なども異なる。

 したがって、輸送する液体物質が“「油」と「有害液体物質」のどちらに分類されるか”は、液体物質の輸送に関わる事業者等に大きく影響を与えることになる。

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「油」とは?

 前置きが長くなってしまったが、ここからが本題である。

 前述の「定義」を読んでみれば分かると思うが、マルポール条約や海防法では、そもそも「油」とはなんなのかということがいまいちはっきりしていない(“科学的に”は明確に定められていない)。
 簡単に言えば、「油」は、マルポール条約では「有害液体物質以外の石油」であると書かれており、海防法では「原油など又は原油などを含む混合物」であると書かれているが、そもそも「石油」とは何なのか?原油とは何なのか?といったことは明確にされていない。

 ちなみに、海防法の施行規則(国土交通省令)において、前述の定義のうちの「国土交通省令で定める油」の一つとして「炭化水素油(石炭から抽出されるものを除く。)であって、化学的に単一の有機化合物及び二以上の当該有機化合物を調合して得られる混合物以外のもの」と定められているが、「調合して得られるもの」という表現が物質の定義に含まれているのも“科学的”とはいえないだろう(化学的に全く同じものであったとしても、調合されたものは「有害液体物質」で、調合されていないものは「油」に分類されることになるのである)。

 これらの規則は、対象物質による海洋環境への悪影響(例えば、油であれば、生物への毒性影響はもとより、油膜を形成することにより生物を窒息させる物理的な影響など)を低減することを目的として定められているため、本来は「物質の性質」に焦点を当てて規則を定めるのが適切であると考えられる。
 具体的には、例えば「油」を、炭化水素(炭素数が○以下のもの)の割合が○%以上を占め、硫黄、窒素又はそれらの化合物を○%以下含むものであって、混合物の粘度が○cSt以上、溶解度が○g/L以下のもの、といった形で定めることも考えられる。

 しかし現状では、「油」と「有害液体物質」の区別がいまいちはっきりしていない状態となってしまっているのである。

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油のような有害液体物質「バイオ燃料」

 既存の規則については、実務的なことを考えると大きく変更するのは容易ではないとか様々な経緯・事情があることは容易に想像できるため、大きな問題や混乱が生じていないのであればある程度は「仕方ない」と思って目をつむることも時には必要かもしれないが、「油」の件に関しては最近になってもう少し状況が複雑になってきている。

 それは「バイオ燃料」の登場による。
 バイオ燃料は、動植物由来の有機資源(バイオマス)を原料として作成された燃料であり、再生可能である点やカーボンニュートラルである点から、石油燃料の代替品として注目されている。サトウキビやトウモロコシから作る「バイオエタノール」などが有名かもしれない。

 この「バイオ燃料」は、「石油とけっこう似ているが石油ではないもの」になるのだが、さらに厄介なのは、バイオ燃料が石油系燃料と混合されて使用されるケースも多いということである。

 近年、このバイオ燃料や「バイオ燃料と石油系燃料の混合物」(以下「バイオ燃料混合油」という。)が海上輸送されるというケースも出てきて、その扱いについて国際海事機関で議論が行われた。
 詳細は割愛するが、結果的には、バイオ燃料は「有害液体物質」であるとされ、バイオ燃料混合油については、「石油系燃料の含有率(体積百分率)が75%以上のもの」は「油」、「石油系燃料の含有率(体積百分率)が75%未満のもの」は「有害液体物質」と分類されることとなった。
 ちなみに、「75%」という数値に科学的な根拠はなく、市場に出回っている製品の混合割合等を考慮して定められている。

 さらに、最近になって、バイオ燃料のうち一定の条件を満たすものは「油」とみなしたらどうかという議論も行われている。
 もはや“科学的”な判断とはほど遠く、迷走しているようにも感じられる。

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科学的に妥当な政策作り

 前述のケースは、「油」の定義に関して、“科学的な妥当性”は気にせず従来の(数十年前に作られた)枠組みを大きく変えないように対応してきた(先延ばしにしてきた)結果、問題が複雑になってしまっているようにも思える。この問題については、「油のような化学製品」が多くなってきた頃に、「油」と「有害液体物質」の区別を科学的に明確にしておくという選択をした方がよかったのかもしれない(国際海事機関では、最近になって(ようやく)「油」と「有害液体物質」の区別の明確化に関する議論が開始されている)。

 行政の仕事に関わっていると、従来の枠組みを変えないことに必要以上のこだわりが感じられる場面も少なからずある。
 管理の枠組みを作る上では、朝令暮改にならないよう慎重に判断することも当然重要ではあるが、一方で、世の中の状況は常に変化している(知見も集積されていく)ため、それに合わせて科学的な知見に基づく判断(見直し)を速やかに行うことも同じくらい重要である(その方が結果的に少ない労力で済むことも多いだろう)。

 「油」の話に限らず、環境規制については既に多くの規則が定められており、策定から十年(数十年)以上が経過しているものも多いが、既存の規則は(少なくとも現時点では)必ずしも“正しい”(科学的に妥当である)とは限らないということを念頭に置いて、可能な限り科学的に妥当な政策作りに貢献できるよう建設的な提言をしていきたいところである。

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